chickengirlのブログ

徒然なる日記です。

彼がもし、私の孫だったなら…

私の同級生の母親は、一人で美容室を営んでいる。
良心的な価格に加え、田舎特有の人情の厚いおば様が、学生の私から1500円でカット・カラーをした挙げ句、白菜やら洗剤やらを持たせてくれる。
母も、長くこちらにお世話になっている。
田舎の街の小さな美容室だから、最先端の物は何も無いけど、ホッコリする。
私も母も、祖母も3世代がこちらの美容室のおウチと同じ世代で、オバアちゃまも、健在の頃は、よく美容室でお客様のお相手をされていた。
お客様といっても、常連は田舎町の奥様だから、オバアちゃまのお友達さんだ。


オバアちゃまは、お仕事で接客している訳ではないので、ふら〜と現れて、美容師のおば様のお手伝いをなさる時もあれば、お昼寝されてお会いしない時もある。途中でご用事にお出かけされる時もある。 
家族の中では、自由人の様で、娘である美容師のおば様は、時々お世話をやかされて、困る事もある様だ。



おじい様が入院された際は、オムツの交換や、何かしらの不具合があると、いちいち美容師のおば様に連絡してきて、今すぐ病院にきて、不具合を取り除くよう頼んできたらしい。
美容師のおば様が呆れ果てて、「私、今、お店にいてお客様いるから、看護師さんにお願いしてちょうだい」と頼むと、「看護師さんは忙しいから、こんな事でいちいち呼んだら可哀想」とおっしゃったとか。
こんな武勇伝を沢山もっている。
勿論、家族からしたらたまらないだろう事は、私にも容易に推測がたつ。
しかしながら、私は、このオバアちゃまがとても素敵で大好きだった。



ある、年の瀬に、髪を整えにいくと、美容師のおば様が、「お母さん(オバアちゃまの事)、どこいったのかしら?まったく!」と、カットの途中で鋏を片手に、入り口を除いていた。
どうやら、さっきまでお客様のお相手をされていたオバアちゃまの姿がないらしい。
しかしながら、お客様も何人かおり、私も入店したものだから、外に探しに出れる状態でもなく、美容師のおば様は、店内に戻り、私のオーダーをとり、また、お客様のカットを始めた。
だいぶたち、私がカット番になった頃、オバアちゃまはひょっこりお戻りになった。



「今な、そこで工事してらんね。朝から、なおき(孫息子)くらいの男の子が、ずーっとガードマンで立ってらんねん。こんなに寒いのに…可哀想やから、温かい缶コーヒー買ってきてあげてん。」と、息を切らしておっしゃる。

その日は、年の瀬と言うこともあり、降雪予報も出る程のとても冷え込んだ日だった。


すかさず、美容師のおば様は、
「お母さん、そんなん、あの子は仕事中やのに、話しかけて、知らん人からコーヒーなんか勧められて迷惑やで〜」
と、さとす。
足が悪いオバアちゃまを、美容師のおば様も姿が見えなくなって、とても心配されていたと思う。その安堵からでた言葉だろう。
しかし、自由人のオバアちゃまは、こともなげに
「せやかて、こんな寒い日に、いくらお給料でたかて、風邪ひくやんか。私は、なおきが、こんな寒い日に外で立ってなアカンかったら、誰ぞ、温かいコーヒーでも渡してくれたらな〜と、思うたからよ。きっと、あの子のお母さんもそない思ってると、私は思う。」
と、毅然と言い放った。
そんな二人のやり取りが、私はいつまでもいつまでも忘れられなかった。
若い頃は、美容師のおば様の現実的な所と、オバアちゃまの優しさの対比が際立って見えたが、私も娘を持ち、当時の美容師のおば様の年齢に近づくにつれ、美容師のおば様の心情にも気づく点が多くなってきた。
それでも、こんなに温かい優しさを、他人にも向けて気持ちをかけられるオバアちゃまが、私にはとても素敵に感じる。



40歳を前に、地元を離れて、単身生活している社員くんやバイトちゃんといると、コロナで帰省も叶わない近況に、やはり、各々のお母様の心情を察して切なくなる。




あのオバアちゃまは、当時のガードマンだけでなく、私の心にも人情の種を撒いてしまわれた様だ。
折角、植えていただいた種だから、私の人生の尽きるまで、大切に育てていきたいと思っている。

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